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トルクメニスタンの日本語教育

0.はじめに

本稿では、トルクメニスタンの日本語教育について紹介する。後述するように、トルクメニスタンの日本語教育は2016年9月を境に状況が変わった。そこで本稿では、2016年9月までの日本語教育の動向を日本語教育の「これまで」として1.で取り上げる。2.では日本語教育の「いま」として、2016年8月までトルクメニスタンで唯一の日本語教育機関であったトルクメニスタン国立ドゥ―レットマーメットアザディ名称世界言語大学(以降、「アザディ大学」とする)における日本語教育について紹介する。3.では、日本語教育の「これから」として、2016年9月以降の日本語教育の展望について述べる。

1.日本語教育の「これまで」

 トルクメニスタンは、北はカザフスタンとウズベキスタン、東はアフガニスタン、南はイランと国境を接し、西はカスピ海に面する中央アジアの国である。面積は約49万㎢、人口は約540万人で、首都はトルクメニスタンの南に位置しているアシガバット市である。1991年に旧ソ連から独立し、1995年には国連から永世中立国としての承認を得た。言語は主にトルクメン語とロシア語が使われている。天然ガスの埋蔵量が多く、その豊富な資源を背景に近年急速に経済成長している国である。

 近年、日本とトルクメニスタンの関係は強まりつつある。2009年、グルバングリ・ベルディムハメドフ現大統領が初めて訪日し、以降現在まで3回来日している。2013年には、東京に在日本トルクメニスタン大使館が開館した。日本からも2010年以降、副大臣や大臣政務官などの要人がトルクメニスタンを訪れるようになり、2015年10月には日本の首脳として初めて安倍晋三内閣総理大臣がトルクメニスタンに来訪した1。また、トルクメニスタンの豊富な資源に注目し、日系企業もトルクメニスタンに進出している。このように、両国の政治的・経済的な関係は徐々に強まってきている。

 グルバングリ・ベルディハメドフ現大統領の提案により、2007年アシガバット市内にあるアザディ大学に日本語学科が初めて設立され、トルクメニスタンにおける日本語教育が開始された2。以降、毎年10名程度の学生が日本語学科に入学しており、現在卒業生は50名以上に上る。日本語学科開設当初からトルクメン人講師と日本人講師が協力して日本語学科の運営にあたっており、2012年にはアザディ大学日本語学科第1期生が日本語講師となった2。2016年9月現在、アザディ大学の日本語講師は3名、学生数は53名である。2013年には日本の筑波大学と学術協定を結び、毎年アザディ大学から数名筑波大学へ留学できるようになった2。その他にも文部科学省が提供する留学プログラムもあり、様々な理由から日本に行くことが難しいトルクメニスタンの学生にとって貴重な留学の機会になっている。卒業後の進路は外務省や日本大使館、アザディ大学の日本語講師などであるが、トルクメニスタン国内で日本語を使った仕事がほぼないことや、大学卒業後、男子学生は2年間の兵役、女子学生は国が決めた機関での勤労奉仕が義務づけられることなどから、日本や日本語に関係する仕事に就く卒業生は非常に少ない2

2.日本語教育のいま

 2007年に日本語教育が始まったアザディ大学は1984年ロシア語やロシア文学の教育機関として設立され、以降徐々に教育言語の数を増やしてきた。現在、ロシア語・文学部の他に、ロマンスゲルマン語・文学部、東洋言語・文学部の3つの学科が設置されており、12の言語が学ばれている。日本語学科は東洋言語・文学部に属している。アザディ大学を含めたトルクメニスタンの多くの大学は2学期5年制であり、週6日、午前8時30分から午後1時まで授業がある。アザディ大学に設置されている科目はすべて必修科目であり、学生たちは出席が義務づけられている。午後や日曜日は自由時間であるが、トルクメニスタンでは多くの国家イベントが開催されるため、それに動員されることも多い。

 日本語学科では、総合的な日本語能力をつけることを目的とした日本語演習の授業を中心に、日本語音声学・語彙論・文法論・日本語史・日本事情・文体論・日本語教授法・通訳/翻訳といった幅広い日本語を学べるような科目が設置されている。日本語関連の科目以外にも、トルクメン語、トルクメン文学、心理学、教育学などすべての学科に共通する科目もあるが、学年が上がるにつれて日本語関連科目の比重が大きくなる。学生は比較的真面目に授業に取り組んでいるが、中には日本語学習に意味を見出せずやる気がない学生もいる。大学卒業時の平均的な日本語能力はN4~N5程度であるが、学生の学習動機に大きく左右されるため個人差が大きい。

 日本語学科における授業以外の取り組みとしては次のようなものがある。主なものは「日本文化の日」というイベントと校内日本語スピーチ大会である。「日本文化の日」とは、他学科の学生に日本について紹介するイベントであり、日本語劇や詩の朗読、歌やダンスの披露、日本文化の紹介を日本語学科の学生が行う。毎年工夫を凝らした発表が披露されて他学科の学生も楽しんで観覧している。スピーチ大会は、在留邦人が審査員として参加し、スピーチの発表と質疑応答が行われる。この大会で1位と2位になった学生は中央アジアで開催される弁論大会に、3位になった学生はモスクワで開催される弁論大会に参加する資格をそれぞれ得ることができる。スピーチ大会でも学生それぞれの個性が活かされたスピーチが発表され、在留邦人から好評を得ている。その他に、毎年ロシアから講師を招き、書道や茶道、着物の着付け、華道などを行う日本文化体験の授業や、テレビカメラを前に日本料理について紹介する料理大会などのイベントもある。日本から大学生が来ることもあり、彼らと交流を行うこともある。また、2015年10月の安倍首相来訪に伴い、安倍首相夫人が教育関連施設を見学しアザディ大学の学生と懇談会を行った。学生は緊張しつつも安倍首相夫人の話に耳を傾け質問に答えていた。さらに国際連合から永世中立国の承認を受けてから20周年にあたる2015年12月12日の中立記念日には、世耕官房副長官(当時)がアザディ大学に訪問し、学生と懇談を行った。

 2007年から始まり、日本とトルクメニスタンの関係が強まる中で展開してきた日本語教育であるが、トルクメニスタンで日本語教育を行う上での課題もある。大きく3つの課題がある。1つ目は日本語学科を運営していく上での制約が多いという点である。たとえば、講師以外に日本語を使う機会が非常に限られてしまう。トルクメニスタンの学生は許可なく外国人と接することができない。また、外国人も許可なく大学構内に入構することができない。そのため、在留邦人がアザディ大学に入構し学生と交流をする場合は、日本大使館を通じてトルクメニスタン外務省及び教育省から許可をとらなければならず、講師以外の日本語話者に日本語を使ってやりとりをすることが非常に困難となる。また、スピーチ大会などで学生が海外に出国する場合も同様にトルクメニスタン外務省及び教育省からの許可が必要となる。さらに、授業期間中に学生が予告なく国家イベントに動員され、場合によっては突然授業が中止になることあるため、授業計画が立てづらくなるということもある。このように、トルクメニスタン特有の事情により、様々な面で日本語学科の運営に対し様々な影響が出ている。2つ目は日本語教育の質が十分に確保されていないという点である。トルクメニスタン国内で日本語教材は販売しておらず、物流事情などにより日本国内から入手することも非常に困難である。したがって、日本語教材が足りず、一冊の教科書を複数の学生で使うことを余儀なくされている。教材の内容も、多様化してきた学生のレベルやニーズにも合わなくなってきている。また日本語学科のカリキュラムも、日本語教育の目的や育成したい学生像が不明確であり、学生の実情やトルクメニスタンの文脈を反映しているとは言い難い。日本語教員に対する教員研修なども行われていないため、効果的な授業を行うための力はもちろん、トルクメニスタンの状況や目の前の学生の状況に合わせ日本語の授業をデザインしていく力などの日本語教育能力をどのように育成・向上していくかも大きな課題である。3つ目は日本語を学ぶ意味が不明確であるため、学生の日本語学習に対するモチベーションが下がってしまう点である。大学の外や将来日本語を使う機会はほぼなく、さらに前述したとおり在留邦人との接触も制限されてしまうため、中には、日本語を何のために学んでいるのか分からなくなってしまい、日本語学習に真剣に取り組まない学生もいる。

 上述したような課題に対応するために、筆者3は次のような取り組みを行った。まず、日本大使館と協力し在留邦人とアザディ大学の学生が日本語で交流するためのイベント「日本語実践クラブ」を実施した。このイベントは日本大使館からの提案により始まったものである。学生にとっては日本語を使うよい機会になっており、在留邦人にとってもなかなか話すことのできない学生と顔を合わせられる貴重な場となっている。教材の不足についても、国際交流基金からの助成、さらには安倍首相夫人来訪の際に日本語教材寄贈もあり、徐々に教材が充実してきた。また、授業でも様々な工夫を行った。例を挙げると、1年生の日本語演習ではオンライン上で日本人と手紙のやり取りを行ったり、4年生の翻訳通訳の授業では、日本に関して書かれたに日本語のテキストをトルクメン語に翻訳した上で、他学科の学生に日本について紹介する記事を作るという活動を行ったりしてきた。このように、「将来何かができるようになるため」に日本語教育を行うだけでなく、今自身の周囲にいる人に対しことばを使う「今-ここ」でのやりとりを重視した授業も行ってきた。

3.日本語教育の「これから」

 アザディ大学を中心に展開してきたトルクメニスタンの日本語教育だが、2015年の安倍首相来訪を機に2016年9月からアザディ大学以外の教育機関でも日本語教育が開始されることが決定した。初等教育機関では、アシガバット市内にある140番学校で1年生(6歳)から日本語教育が始まった。また中等教育機関では、140番学校を含めたトルクメニスタン全国の12の学校で5年生(10歳)から日本語教育が開始された。ともに45分の授業が週2回あり、初等中等教育用の教科書やワークブックを使って授業が行われている。現在日本語教育を行っている学年から順次12年生まで日本語教育が実施・拡大される予定である。高等教育機関ではアザディ大学を含めたアシガバット市内7つの大学で日本語教育が開始される予定であったが、日本語教員不足から1校日本語の授業が開講できていないため、現在は6校で日本語教育が行われている。中でも今年開校した、オグズ・ハン記念トルクメニスタン工科大学は筑波大学と連携し日本式のカリキュラムに準じて日本語教育やその他の授業を行っている4。さらに一般向けにアザディ大学に隣接する言語センターでも日本語教講座が開講されている。このように、2016年9月から日本語教育が急速に拡大し、日本語学習者も急増した。特に初等中等教育機関を中心に今後もしばらくは日本語学習者が増え続けていくものと考えられる。

 一方で、突然日本語教育の拡大が決定し、中長期的な見通しや準備期間が十分でないまま日本語教育が開始されたため、多くの課題を抱えていることも事実である。特に、教員の確保は大きな問題である。しばらくアザディ大学の卒業生が日本語教員になることが考えられるが、1学年10名と学生数が少ないうえに全員が日本語教員になるとは限らないので、今後、年を追って増加していく日本語学習者数に対し充分な数の日本語教員が確保されないという事態が発生することが予想される。さらに、教員をどのように育成・養成していくかも大きな課題の一つである。

 以上のような日本語教育の拡大をきっかけに、2016年9月から国際交流基金から専門家が派遣されることになった。トルクメニスタンの日本語教育は今、大きな転換期を迎えており、今後の動向が注目される。

  1. 以上、外務省ホームページ参照。
  2. 国際交流基金ホームページ参照。
  3. 筆者は2015年9月から2016年8月までアザディ大学の日本語講師として勤務していた。
  4. 筑波大学ホームページ参照。

参考文献

  1. 外務省ホームページ トルクメニスタン(2016年12月8日)
  2. 国際交流基金ホームページ日本語教育国・地域別情報 トルクメニスタン(2016年12月8日)
  3. 筑波大学ホームページ ベントン副学長がオグズ・ハン記念トルクメニスタン工科大学開校式に出席(2016年12月15日)