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なぜ日本人教師の評価は「甘い」と言われるのか

なぜ日本人教師の評価は「甘い」と言われるのか

日本人教師の評価が「甘い」と感じたことはありませんか。日本語の授業で日本人教師が「会話」を担当し、ロシア人教師が「読解」、「翻訳」、「文法」などを担当する場合、学期末の成績の擦り合わせほど面倒な作業はありません。その際、日本人教師の評価を「甘い」と感じるロシア人の教師も多いようです。

なぜこのような評価の相違が起こるのでしょう。それは、ロシア人教師と日本人教師が、お互いの評価基準を共有していないのが原因です。

学科・講座のプログラム運営上、教師には、一定の日本語レベルを備えた学生を養成する義務があります。ですから、評価が「到達度評価」になるのは当然です。到達度評価というのは、各学科や講座が作成する教育プログラムの内容をどれだけ達成できたかを図るものなので、日本人教師も当然、それを理解する必要があります。
しかし、日本人教師が担当するのは、主に「会話」の授業です。その際、日本人教師は、「到達度」ではなく「熟達度」によって学習者の会話能力を評価します。「熟達度」の評価では、一般的な言語能力が測られます。特定の文法項目や文型が使用されなくても、自分の意見が論理的に言えたり、異なる見解に反論できたりすれば、評価は高くなります。会話の授業では、様々なテーマが扱われるため、「到達度」評価では対応できない場合が多々あるのです。ご存知のように、ロシアの大学には、「東洋学」や「言語学」などの専門があります。例えば、ロシア連邦教育科学省教育スタンダード(ФГОС)で定められている「高等教育(学士)032100東洋学・アフリカ学」の言語運用能力を見てみましょう。同スタンダード5-2には、「『東洋学』を専攻した学生は、研究対象地域の地理、人口動態学、経済、社会、政治などの分野を学ばなければならないとあります(5-2-6)。テーマが毎回変わる会話の授業では、一定の評価基準が必要なため、日本人教師は「熟達度」評価を使用するのです。ここで、もう少し具体的な例をあげましょう。

1)ロシア人教師に「教科書の「会話」の部分だけやってください」と言われた場合

使用教科書に会話活動のタスクが十分あれば、評価もしやすくなりますが、読解テキストの最後に2、3問、「〜について、あなたはどう思いますか。話しましょう。」としか書いていない教科書もあります。経験のない日本人教師の場合、おそらく教科書以外の素材を準備し、補助教材も作成するでしょう。時には映像教材を使用し、学生の興味を惹くような導入をする場合もあるかもしれません。その場合、使用する語彙や表現も増えてしまい、教科書の既習事項による評価はすでに不可能になってしまいます。日本人教師は、学生がどれだけ自分の意見が言えたかという基準で評価を行います。当然、ぞの評価は主観的なものになってしまいます。

2)ロシア人教師に「このテーマでなにか学生に自分の意見を話させてください」と言われた場合

中級になると、会話のテーマも身近なものから、地域社会、国、国際社会に関するものに変わっていきます。CEFRが定める共通参照レベルではA1〜C2の6レベルが設定されていますが、「東洋学」を専門とする大学では、最低でもB2レベルが到達目標となるでしょう。その理由として、CEFRが自立した言語使用者として規定する参照レベルB2の尺度には、「かなり広範な範囲の話題について、明確で詳細なテキストを作ることができ、様々な選択肢について長所と短所を示しながら自己の視点を説明できる」とあるからです。論理的に自分の意見を表明し、他人の見解にもしっかり反論できる能力を養成しなければなりません。使用する教材も、新聞記事やインターネット上の資料、映像などになるでしょう。当然、教科書では扱わなかった語彙や表現を取り上げる可能性も出てきます。そのようなレベルを判定するためには、テーマが異なった場合でも一定の評価基準を取り入れる必要が出てきます。日本人教師に適当な評価基準がない場合、「文法はできないけど、よく話せる」といった曖昧な評価にしかなりません。

2つの事例を見た場合、日本人教師は教科書やロシア人教師が設定したプログラムの到達目標から外れて、独自の評価をしてしまう可能性があります。ロシア人教師と協働している場合、意見が合わなくなるのも当然です。また、授業では、ロシア人教師が導入した語彙や表現などにも気を配らなければなりませんが、それらを使わなくても学生が言いたいことが論理的に言えた場合はどう評価すればいいのでしょうか。

2015年のヨーロッパ日本語教育シンポジウムで、「日本語ネイティヴ教師とノンネイティヴ教師の対話」というワークショップが開かれ、ネイティヴ教師(以下NT)とノン・ネイティヴ教師(以下NNT)の対話の重要性が指摘されました。そこでは、NTとNNTが、①両者の違いや長所を尊重し、②母語と第二言語の習得および運用の違いや NNTの利点を認識し、③言語や言語学習そのものへの知識を深め、④気軽に協働作業することで「対話」が生まれるというフランスの事例が紹介されています。ロシアには長い伝統に培われた独自の外国語教育法があり、一定の成果を上げていますが、それをわかりやすく日本人教師に説明しなければ、効果的な教育活動は望めません。そのためにも日本教師とロシア人教師の「対話」を促す機会が増えればいいと思います。日本人教師は、「会話」授業の評価基準をはっきりさせ、ロシアの教授法や評価方法を尊重しつつ、「会話」」の授業は熟達度によって測られることを説明する必要があります。反対にロシア人教師は、「日本人だから大丈夫」「会話は日本人にお任せ」と思わず、会話の評価にも参加すべきです。また、会話評価にはいろいろな方法があるということを理解する必要もあると思います。具体的な評価法については、次回ご紹介します。

 

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阿部弘